御無沙汰しておりました。『ライナス第12号』でスモール・タウン・トークを中断して以来、約3年ぷりの再登場となります。この聞、私の大好きな国アイルランドをめぐり、いろいろな変化が起きました。まずは、アイルランドブーム。文学と音楽の国アイルランドは現在世界的な注目を集めています。文学では、シェ一マス・ヒーニ一がノーベル文学賞を取り、「アイリッシュ・トラッド」と呼ばれる伝統音楽をベースにしたアイルランド音楽は国境を超えたブームになっています。


 ライナス19号が発売されるころには、既に終了していることと思いますが、現在アイルランドを代表するトラッド・フォーク・グループであるアルタン(ALTAN)が昨年に引き続き二度目の来日をし、5月19日に北海道では初めて札幌でコンサートを行います。彼らは10年前にデビューし、現在までに合計7枚のアルバムを発表しています。グループは5人のメンバーからなり、リーダーはマレード・ニ・ウィニーという女性です。実は、アルタンというグループは、マレードと夫のフランキー・ケネディ(フルート奏者)とで音楽活動を始めたのですが、残念ながらフランキーは94年秋に癌のために亡くなっています。その当時グループの存続が危ぷまれたのですが、妻のマレードは果敢にバンドを立て直し、現在ツアーにレコーディングにと活発な動きを続けています。
 そんなわけで5月19日、ペニーレーン24で行われたアルタンのコンサートへ行ってきました。
 10年程前、初めて彼女の歌声を聞いた時は、その余りにもピュアでイノセントな歌声ゆえに感動のあまり鳥肌が立ちましたが、今回直に生の歌声に接してみて再確認しました。
 コンサートの当初は、みんな余りにも静かに聞いているので、アルタンのメンバーも戸惑っていたようです。マレードがダンス!ダンス!とけしかけるためか、若い人達がアイリッシュ・ダンスもどきでノリ始め、会場は「リバーダンス」状態になりました。でも、マレードが歌い始めると会場は水を打ったような静けさになり、皆彼女の歌を間き逃すまいと耳を傾けているのが非常に印象的でした。騒然と静寂、ディオニソスとアポロンの世界が交互に展開し、人々をケルトの伝統世界に誘い魅了する。実に感動的なコンサートでした。

参考文献/『アイリッシュ・ミュージックの森I(大島豊著、青弓社)